華林苑 花日記
2024年06月27日(木) 華林のブログ江戸の生け花・続編 … 立花 と なげ入れ・生花(せいか)
江戸・東京の霊的構造 その19ーー武蔵の国の中の〝ヤマト〟
江戸の初頭には「立花」がおおきな流行をみせ、その発端は京都にあった後水尾院が主催した〝サロン〟でした。六角堂(頂法寺)の二代池坊専好が名手として後水尾院に引き立てられたことはよく知られます。その後、立花は多くの人たちのあいだに広まっていったようです。
戦国時代から桃山時代、江戸初期は京都や大坂=浪花は一体となった文化圏で、江戸の街はまだ成熟しておらず、京都を中心に文化が花ひらいていきました。そのなかでも目をひく一つの分野が生け花・立花でした。ここで日本の文化の歴史のなかではじめて「いけばな」と呼べるものが生まれたといってよいでしょう。それは花型の印象や器の形などからみても初期の担い手を考えても、仏前の「お供えの花=供花」から発展したものと考えられます。
前回も述べたように、その百五十年前の足利義政の東山文化で同朋衆(阿弥衆)が担い手となった「生け花(阿弥系の花、古立花)は謎に包まれており、魅力的な存在でありながらも実像がなかなか見えてきません。ただ、床の間で軸や灯、花などをどのように配置するか、という考え方はこの東山文化で生まれたと考えてよく、そこには古来の陰陽、そして五行の哲学がみられます。荘厳(しょうごん=サンスクリット語のvyuhaからくる)という言葉は、その原意は「配置」であり、そこには陰陽五行の哲学と同根の〝配置の哲学〟がみられます。東山文化では軸や茶道具、器類などの美術品の意味づけ・格付けもおこなわれ、それは〝配置〟のあり方にもかかわる重要なことがらでした。
そんな「床の間の荘厳」あるいはその具体的なあり方=荘様の正しい形を追求する動きは、当然、床の間が一般的な建築様式となる江戸時代に入ってから強くなり、その時点でかつての東山文化の床飾りが理想として神格化された、という順序が考えられると思います。
江戸時代前期の立花全盛のなかで生まれてくる、床の間をおもな舞台とする新たな生け花「抛入(なげ入れ)」や、そこから発展して江戸中期以降、江戸で大きく支持をえた生花(せいか)では、お軸や灯などと渾然一体となって、言ってみれば神宿るかのような奥の深い美しさの空間を床の間につくりだすことが目的でした。それは決して誇張ではなく、生花の家元はそのような文言を数多く遺しています。
つまり、仏前供花から華だけが独立したのが立花なら、舞台を仏前から床の間へと代えたのが「抛入(なげ入れ・以下「なげ入れ」と表記します)」や「生花(せいか)」だったということができます。床の間では「軸」が主飾りとして不可欠であり、軸の書画には日本やアジアの長い伝統が刻み込まれていました。江戸期のなげ入れや生花の出版物をみているとその担い手が文化的素養にあふれた人々だったことがよく窺えます。そしてその花もまた、床の間という舞台と軸などの文化にふさわしいものとしてさらに発展していき、定型がない「なげ入れ」から床の間に生ける場所などに呼応した定型を有する「生花(せいか)」へと転換していきました。
さて、「なげ入れ」という生け花が人々に支持される様子を具体的に知る手掛かりは、出版文化として残されたものにあります。当時、手間ひまとコストがかかる出版は、需要があり世の中で存在感があったことの証左と考えられます。立花の独習書や手引きが多数版行されるなかで「なげ入れ」の書がみられるようになる過程が「なげ入れ」が浸透する状況を示しています。
「なげ入れ」の書としてよく引合いに出されるのが『抛入岸之波』元文年間(一七三六-一七四一釣雪野叟)と『抛入華之園』(明和三年一七六六浪花の禿帚子、版元は東都日本橋室町)、『千筋の麓』入江玉蟾、明和五年一七六八?) などですが、そのほかにも出版年や著者の素性がよく分からないものが多数あるようです。
それらとはべつに、当時としては大部(六冊)の出版物として遺されるものに『立花訓蒙図(立花訓蒙図抛入百瓶之花型)』元禄九年(一六九六)があります。先述の三書よりは早い時期になります。ここには立花の図のみならず、「なげ入れ」の花も多数掲載されています。ただ、少し後の時代の「なげ入れ」の図よりはずいぶん賑やかに多くの花枝がさされている図もあり、枝茎を固定する方法は立花と同様のものだった可能性もあります。枝や茎の留め方の遷移は生け花の様式と密接に関係しており、興味がもたれるところです。
手もとにある同書三之巻・四之巻では、「なげ入れ」のページでは床の間やそれに類する場所に生けた図が多く、和歌や絵のお軸にあわせて生けられた花の図も少なくありません。また、器を大きなテーマとし、多くの場合、器の名前をページのタイトルにしています。このバラエティに富んだ器もまた、立花にはみられないものです。各頁の上部に添えられる解説文では故事なども記され、「なげ入れ」が床の間を舞台として、お軸や器と一体となった総合芸術として誕生したことが分かります。そこには、主に和歌という手段で伝授されてきた伝承や故事、伝統が色濃くみられます。
いっぽう、同書の立花の図の頁では生け方の注意はありますが、花の図だけで生ける場所の設定もなく、説明も花材の配置や扱いなどが中心になっています。立花では他の手引書や作品集でも同様の傾向がみられ、「仏前の供花」から仏前を離れて単独で美しさ、豪華さをみせるものとして「立花」が生まれ、「花会」などで美しさを競い合ってさらに発展したという経緯をここにみることができます。ここに、[立花]と[なげ入れ・生花]の性格的な違いをよく知ることができます。
『立花訓蒙図抛入百瓶之花型』は元禄9年(1696)に出版されたもの。その四之巻より立花の図(砂の物)。同書にかぎらず立花の図の場合、このように花だけを図示して背景やお軸などは描かれないのがふつう。上部に生け方や花材などの注意が記される。本は華林苑蔵。
同書には立花とならんで「なげ入れ」の図も多い。なげ入れの頁では「夏花」「秋花」など季節とともに「菱口」「花車」など花器の名前をタイトルとしている。立花の頁にはない趣向だ。なげ入れの頁はすべて床の間などに生けられる図になっている。この〔夏花・菱口〕では、軸は藤原俊成「むかし思ふ草の庵の夜の雨に泪な添へそ山時鳥」で、新古今集にみられるもの。
こちらは江戸時代後期に盛んになった生花(せいか)の図。真流受などとよばれる役枝を中心とした花型が固定し、枝茎を留めるのに「木密」を用いるようになる。これは『三艘舟の生け方』と名付けられ、柿本人麻呂の有名な古歌にあわせて生ける図となっている。和歌などの伝統を重んじるのは「なげ入れ」の系譜といえる。『古流生花櫻の志津玖』(古流の幕末の家元関本理恩の書/華林苑蔵)より。
2024年06月27日(木) 古流の花だより
いけ花作家協会展が6月7日~9日、富山新聞高岡会館で開催されました。
出瓶された方々です。順不同です。
大作
北山理光、門島理紀、河原理佳
深松紫濃
吉野理白、森沢華穂、水野渡月
澤橋理喜、岡田理喜
中作
高森理世
十丸紫陽、窪田漣美
清水美夜穂、大郷民穂
宮腰喜久、水元喜睦
小作
松木理美、加藤樹恵、中山諒穂、吉本春穂
竹内倭日、渡邉倭爽、平野美紀穂、長谷川倭友
四柳明喜加、大坪理和、湯浅喜雅、藤川幸喜
2024年06月06日(木) 古流の花だより
百万石まつり協賛「お花寄せ」が6月1.2日に金澤神社にて開催されました。
2024年06月02日(日) 古流の花だより
5月23~28日 総合花展金沢展が香林坊大和にて開催されました。
家元先生は全期を通して出瓶されました。詳しくは華林苑ホームページ花日記をご覧ください。
また、今回は小作で学生の方々が出瓶されました。
全て順不同。
特別大作
〇前期〇
大作
上田理碧、奥田理和、河崎理鳳、山崎理惠
中作
田中理和、能木場理紀、𠮷田理玲
普通作
中村碧穂、松岡尚碧、北岸華穂、高佳碧
〇後期〇
大作
中保理希、森川理青
中作
入野月華、蘆原理洋
越野順穂、土橋白華、東真華
普通作
太田真希穂、川口碧由、澤口碧悦
小作
岡本紗和、西本玲華、松井咲良、結城美咲
2024年06月02日(日) 古流の花だより
5月25、26日に第30回 全国花のまちつくり小松大会 花展が小松劇場うららにて開催されました。
出瓶された方々です。
大作 中座理萌、中作 中富理扇、淵田紫庵、久保味穂
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