アジア古来の哲学と自然と芸術

彩流華 華林苑

Sairyuka art and old Asian philosophy rooted in nature.

華林苑 花日記


 

2021年07月06日(火) 華林苑 花日記

〝月草〟 の掌華

 万葉集では月草(つきくさ)とよばれるツユクサ。古来、紫は〝高貴な色〟とされ、野にあって天の月を映す高貴な花と考えられたのでしょうか。月は天における陰の象徴、そして陰の本質をあらわす色は、アジア古来の哲学では紫なのです。
 生けた場所は金沢の華林苑、7月6日。前日に小松市の元田様にいただいたツユクサです。
  華/土橋穂美 陶器/華林
 小さな生け花を、手のひら(掌)の華、〝掌華(しょうげ)〟と呼んでいます。
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2021年07月05日(月) 華林苑 花日記

 江戸期の「軸と花」の系譜 … 1

 華林苑には江戸期のさまざまな生け花の書物が残されています。
 『立花訓蒙図抛入百瓶之花型』は元禄9年(1696)に出版されたもので、○○訓蒙図彙などの名前がつく多くの同様の書は、ヒットした『訓蒙図彙』(きんもうずい/中村惕斎/寛文6年(1666=図入り百科事典とされる)のあとに続いた多くの出版物です。『仏像図彙』などなど、古書店の多い金沢の街ではかつてはよく扱われていたようです。
 いけばなの書は江戸時代に入って出版産業がさかんになるころから上方を中心に数多くあったようで、そのなかでも立花とも茶花ともちがう新たないけばな「なげ入れ(抛入)」にかんするものではこの書はごく初期のものではないかと考えられます。「床の間」のスタイルが確立して普及しだす江戸初期では、立花も茶花も床の間にとっては最適なものとは言えず、必然的に生まれてきた花といえるでしょう。そしてこの時期(元禄年間)にこれだけの書がつくられるということは、それよりも一定期間まえから「なげ入れ」がおこなわれていたと考えるべきです。そして元禄のころからは京都、大坂にくわえて江戸にも版元がふえていったようで、つまり江戸でも芸道文化が花開きはじめます。
 このページの軸の哥は藤原俊成の「むかし思ふ草の庵の夜の雨に泪な添へそ山時鳥」で、新古今集にみられるものです。この種の書をみていると、同じ和歌でも今日一般的に伝えられる字句とすこし違うものがみられる場合が少なくないようで、ちがうままに味わうのもいいと思います。また、哥の解釈以上に言葉の響きや単語の意味の深さといったものを楽しみたいと思います。ここでは母音が続くと一文字にしか数えないという万葉集などの「字余りの法則」が部分的に生きているようで、音の響きにはなおのこと敏感でありたいと思います。さらには、あのホトトギスのまるで異次元からきたような鳴き声を思い浮かべることができれば、さらなる幽玄の世界に浸ることもできるでしょう。
 花は卯の花(うのはな)、鷹の羽薄(たかのはすすき)と読めます。器の名前を各頁の題名としており、「菱口」は器の生け口の形によるものでしょう、器が花にとって絶対的に重要であるという室町・同朋衆いらいの感覚と思われ、軸と花の関係を重視するのも同様です。立花ではこの感覚は失われ、絢爛豪華を競い合う『花会』という道を歩んでいきました。
 図の上の解説文はずれ込んでおり、この図の解説文は2ページほど前にあります。また図の左上には「夏花」とあり、四季ごとの構成となっています。   (華林)

むかしおもふ くさのいほりの よるのあめに なみだなそへそ やまほととぎす
〔図はクリック、タップすれば拡大します〕
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2021年06月22日(火) 華林苑 花日記

立花の巻物

 華林苑には江戸期、明治期のさまざまな生け花の書物が残されています。
 写真は立花の巻物です。板行されたもので、奥付(奥書)に出版者の名前があり、柏屋藤九郎と読めそうです。立花家の大住院以信は江戸前期に活躍した名手と言われた人で、この巻物は、以信の花を主に若干の門弟の花をくわえた絵図=作品集から木版をおこしたものかと考えられますが、正確なところはわかりません。残念ながら保存状態はあまりよくありませんが、絵そのものはとても美しい刷色のままです。江戸時代の技術には驚かされます。
 立花は室町時代にはじまった花で、室町将軍家の同朋衆のいわゆる古立花(後世に想像で描かれた図はありますが、謎の花とされます)より少し後の時代にはじまったものです。花会などで華美さを競い一世を風靡しましたが、同朋衆の「床の間の花」や江戸初期~中期の「なげ入れ」の考え方とは違い、書画・和歌などの軸と合わせて生けるものではありませんでした。
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2021年06月22日(火) 華林苑 花日記

桑 風の華

 桑(くわ)の木を彩流華・風の華の省略形、つまり一筆書きのような生け方でいけています。
 養蚕(絹織物)の木、またそのまま食べても美味しマルベリーの木ですが、東西の神話にも登場しさまざまな興味ぶかい側面がみられます。木材としても使われ、生薬(漢方薬)の材料にもなり、いくつかの言葉やいいまわしのもとになるなど文化満載の植物です。調べてみれば面白いかもしれませんね。五行の観点からは陰陽の交わりのなかで〝日〟つまり〝陽〟の性格の文化が強い木とも言えます。
 いただいた桑の木は水揚げが難しくほうほうのていで生けています。数年前の作品です。
 陶花器 … 意匠/華林 制作/前田弥冨  華/華林
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2021年06月05日(土) 華林苑 花日記

どくだみ の〝掌華〟

 小さな生け花を、手のひら(掌)の華、〝掌華(しょうげ)〟と呼んでいます。掌華では野生のもの、庭のものなどが美しい表情を見せます。大切なのは器えらび。今回は意図あって黒い器をえらんでいます。
 生けた場所は金沢の華林苑、6月4日。金沢では今がドクダミの花のさかりです。
 一重のドクダミ、八重のドクダミ、葉はそっくりです。八重のほうの器は意匠・華林、制作・前田弥冨。一重のほうはかつて金沢の郊外の倶利伽羅峠のふもとの道の駅のような場所で求めたと記憶しています。(華林)
  華/東 真華

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2021年05月22日(土) 華林苑 花日記

ユズリハ(杠) の新緑

 今年の葉が成長すると去年の葉がいさぎよく散ることからきたとされるユズリハの名前。若い葉の赤い葉柄が柔らかい緑に映えます。
 彩流華・なげ入れ調 … ユズリハ、バイカウツギ、レースフラワー
   陶花器 … 意匠/華林 制作/前田弥冨  華/華林

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  上の日付は投稿日で、生けた日ではありません。季節の花、季節をやや先どりした花を過去の作品から選んでいます。

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2021年05月22日(土) 華林苑 花日記

ミツバツツジの新緑  なげ入れ調

若い葉が赤みを帯びる木はよくあります。新緑と呼べるのか、その一歩手前なのか‥‥。赤い色素はまだ弱い葉の組織を紫外線の害から守るため、とも言われます。切れ込みが大きい赤茶と緑の葉がミツバツツジ。花が咲いた後です。
彩流華・なげ入れ調 … ミツバツツジ(葉)、ノリウツギ、アスチルベ、アトランティア
陶花器 … 意匠/華林 制作/前田弥冨  華/華林

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2021年05月22日(土) 華林苑 花日記

菖蒲を生ける なげ入れ調

 菖蒲は花菖蒲=ハナショウブとよく間違われます。それもそのはず、菖蒲に似ていて花がまったく違う豪華なもの、という意味のネーミングです。どちらも池に生え、もともとは凛とした姿の葉が喜ばれたものと思われます。古代に青銅の剱が尊ばれたのと似た感覚でしょうか。
 菖蒲は菖蒲湯などで知られます。花はサトイモ科らしい特徴をそなえていますが、地味なものです。いっぽう花菖蒲はアヤメやカキツバタなどの仲間で豪華な花ですが、江戸時代からさかんにつくられた園芸品種、つまり交配で生み出された人工的な植物です。
 同じ水草のカラー(海芋、花と葉)をあわせて古い打ち出しの「薄端」に生けています。
(華は華林) 

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2021年05月22日(土) 華林苑 花日記

紫陽花の季節の禮華

  数年前に生けた禮華です。カエデ、ガクアジサイ、ヤマアジサイ、ススキを生けています。
  じつはこれ、いただいた花材です。一時期は自分で、あるいは切り出しの方と一緒に山野で切った花をさかんに生けていた時期があり、野生のもので水揚げのよいもの、悪いものなどあるていどは頭に入っています。また美しい植物は、生えている場所にも独特の生き生きとした雰囲気があり、そんなことが生け花の原点だと痛感します。
  いただいたカエデなども、その方(蘆原様)がお住まいの地が生き生きとした場所であることを思わせました、金沢のやや山手です。
  (華と陶器などの意匠は華林) 

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2021年05月20日(木) 華林苑 花日記

五軸(五幅対)

 「五行」はアジア・日本の古い哲学です。ここからさまざまな文化芸道、あるいは宗教のあり方が生まれています。
 五行のそれぞれを、つまり木火土金水の在り方を一筆書きのように『円相』として数年前に描きました。そして昨年の金沢市での花展で、この五軸に華を生けました。よく似たころ、東京・元赤坂でのイベントでは、もう一つの五軸を飾って花を生けました。
 五行を表現するものを左右に一列にならべるのは、鎌倉時代のころからはじまったかと考えています。(調べれば、もっと古いものが出てくるかもしれません)それ以前は、東西南北と中央、あるいはそれを平面的に大きな軸に描く、といったものだったようです。
 たとえば「五壇の法」とよばれるものも、鎌倉時代あたりに左右に一列にならべるようになったのでしょう。ただ、これが五行を意味するということはあまり意識されていなかった場合もあるようで、ならび方が不自然な例もみられるようです。
 室町・東山文化のころの床飾りの図などの史料をみていると、五軸をならべてもっとも荘重な飾り方としています。「五行」とは記されていませんが、当時の常識からいって五行を意味する五軸であったことは間違いないでしょう。
 写真の作品の軸は、向かって左から火・土・金・水・木となっています。そしてそれぞれに合った意味合いの華を生けています。

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